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東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)76号 判決 1973年1月26日

原告

日本化藤株式会社

右代表者

原安三郎

右訴訟代理人弁理士

竹田和彦

被告

特許庁長官

三宅幸夫

右指定代理人

渡辺清秀

外一名

主文

原告の請求は、棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、「特許庁が、昭和四十一年四月七日、同庁昭和三八年抗告審判第七五五号事件についてした審決は、取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は、主文同旨の判決を求めた。

第二、請求の原因

原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

一  特許庁における手続の経緯

本件特許出願に関する特許庁における手続の経緯は、次のとおりである。

発明の名称及び出願人 「豚肺虫の駆除薬」・原告

特許出願の年月日 昭和三十三年三月八日

拒絶査定 昭和三十八年十月二日

抗告審判性請求 同年十一月十四日

抗告審判番号 昭和三八年抗告審判第七五五号事件

審決

年 月 日 昭和四十一年四月七日

主文 「本件抗告審判の請求は成り立たない。」

送達 昭和四十一年四月二十三日

二  本願発明の要旨

グリシン銅をそのまま、あるいは適当な担体と混同することを特徴とする豚肺虫の駆除薬。

三  本件審決理由の要点

本願発明の要旨は、前記掲記のとおりと認められるところ、その先願に係る特許発明である特許第三〇九、六六四号(公告番号特願三一―三二、六五〇号)の発明(以下「先願発明」という。)は、無機あるいは有機銅塩(豚に対し強毒性のものを除く。)を有効成分とする豚肺虫駆除剤にあり、これを本願発明と対比するに、先願発明の出願当初の明細書中に有機銅塩の例として記載されているメチオニン銅は、本願発明の有効成分とするグリシン銅と豚肺虫駆除薬としての作用効果において、格別の差異を認めえないから、本願発明は、先願発明の有機銅塩の一実施態様にすぎないものであり、結局、本願発明は、先願発明と同一発明というべきである。したがつて、本願発明は、旧特許法(大正十年法律第九十六号)第八条の規定によつてこれを特許することができない。

なお、請求人(原告)は、先願発明の明細書は、昭和三十四年十一月十二日に訂正され、その際、実施例六としてグリシン銅及びその他の銅塩が補充されたものであるから、先願発明は、その出願時(昭和三十一年十二月二十八日)においては、発明未完成であり、したがつて、完成されたその出願日は、上記訂正書が差し出された日とみるべきものである旨主張するが、先願発明は、出願当初の明細書中に有機銅塩の例としてメチオニン銅を明記している点からみて、その出願時において発明未完成のものとは認め難く、かつ、上記グリシン銅その他の実施例を補充することが出願当初の明細書の要旨を変更するものとは認められないから、請求人の主張はこれを採用することができない。<後略>

理由

(争いのない事実)

一本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が、いずれも原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二原告は、本件審決が本願発明をもつて先願発明と同一発明であるとしたことは判断を誤つたものである旨主張するが、この主張は、理由がないものといわざるをえない。すなわち、先願発明の要旨が本件審決の認定のとおりであること、及びグリシン銅が有機銅塩に属することが本願出願当時すでに周知の事項に属することは原告の認めて争わないところであるから、その要旨とするところが前項掲記のとおり当事者間に争いのない本願発明は、先願発明と同一発明とみざるをえないことは明白というべきである。

原告は、先願発明においてグリシン銅を有効成分とするという技術思想は、本願出願後である昭和三十四年十一月十二日手続補正書により初めて示されたものである旨主張するが、この主張は、前記周知事項に照らし、理由がないものというほかない。また、原告は、先願発明は、発明として未完成である旨主張し、種々の理由を挙げてその根拠を説明するが、仮に、その主張することが事実であるとしても、それらの事実は、あるいは、先願発明に対する拒絶理由ないしは無効事由たりうるに止まり、もとより、その本願発明に対する先願発明たる地位を左右しうるものでないことは、いうまでもない。けだし、そのような瑕疵(かし)を含む特許出願も、なお、出願としての地位を保持しうべきものであるからである。

(むすび)

三叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条及び民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(三宅正雄 武居二郎 友納治夫)

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